ささやかな幸せ。

生まれた時から一緒の双子の姉と、物心つく前から一緒の幼なじみの親友が、ようやく、なんとか、つき合いだした。
 俺としては、こうなるということは、それこそ10年も前から分かり切っていた。
 そんでもって、これは、俺にとってもうれしいこと。
 ただの幼なじみであった三人から、少し関係図は変わったけれども、日常生活そのものはさして変わりもしないで。
 俺の目下の楽しみは、姉をからかい、親友をからかうこと。
 
「あーっもう!くどいわ月人!」
「くどくない、くどくない。納得できないから聞き返してるだけだ」
 顔を赤くして、話を終わらせてしまおうとする香月に、問い返してやる。
 俺は帰宅してから同じ事を問い返し続けている。
 親友、海と買い物に出かけて、その途中に交わした会話が元だった。
 帰ってくるなり、リビングにいた香月に疑問をぶつけたのだ。
「どーして背中から飛びつくのは平気でできて、ふつうに手ぇつなぐのはだめなんだ?」
「違うのよ!ぜんぜん、まったく!根本的に!」
 どう違うのやら。
 たとえば、学校帰りなんかに。
 俺と海とが並んで歩いていたりして。
 そこに、香月が後ろから追い付いたとき。
 前なら、俺と、海の間に入り込むように。二人の両腕をとったりしていた、香月の反応。最近では、海に飛びつくように抱きつく。そんな風に変わった。
 もちろん、学校の近くだとか、人通りの多いようなところでは、そんなことしないし、香月の友達がいればまた、違う反応だったりするのだけれど。
 弟の俺が、みていてもしょっちゅうというくらいに。抱きつく事は出来るのに。
 手をつなぐことはダメなのだという。
「ぜってーに、いやがるぞ」
 とまで、海は断言していたが。俺にはさっぱ理由がわからない。
 
「だいたいなぁ、海が気にするぞー?」
 この場にいない親友の名をあげて、追い打ちをかけてみる。実際には、気にするぞではなくて、気にしてるぞ、だ。
「俺が納得いくよーに、説明してみろ。納得出来れば、この件はもー言わないから」

 ちらり、と。母親のいる、キッチンを振り返り――母さんは皿洗いの真っ最中で、俺たちのしゃべる声なんて聞こえないはずだ――観念した、という様に渋々、香月はしゃべり出す。
「だって、手をつなぐ方が、ドキドキするじゃない。手をつなぐのって、特別だわ」
 

 手をつないだら。
 触れる指先から、どんどん体温が伝わる。
 そうして、そこから。
 気持ちもどんどん伝わっていくから。


「だから、ダメなのよ。気持ちまで全部持ってかれるような気がする。あたしが、どれだけ好きかまで、みーんな、ばれちゃう」
 そこまで言うと、香月はソファに座り込み、クッションを抱えて顔を隠してしまった。
 

 なるほど。
 この解答には、俺はちょっと、驚いた。
 普段気が強い香月にしては、少しばかり、珍しいコメント。
 俺の疑問を解消するのにも十分すぎる、答え。
 それから……。


 ゆっくり、少しだけ大きな声で言う。
「なるほど。……だってよ、海?」
 瞬間。
 リビングに響いたのは、姉の絶叫。
 そして、投げられたクッションは。
 それを予想し、しゃがみ込んだ俺の頭上を通り過ぎ。
 隠れていた扉の影から姿を現した、俺にもわかるほど顔を赤くしている海を、見事直撃した。

2001? LIBRALY 1へ


5000HIT記念テキストになるのかなぁ。
本来こいつらは、某シリーズで主役張ってるハズな奴らなんですが。
本編が進んで無いので先にこんなトコに登場。どーしようかなとも迷ったんだけども、こいつらを書きたいので(苦笑)
香月・海・月人、こいつらが私の中に存在し出してから、もう5年も経つんだと言うことが、なんかすごいわ。
……本編すすめよーぜ、私……。

(2008年メモ)
本来の大本のハズのファンタジーは放っておかれる一方ですね(苦笑)。
でも、この3人はやっぱり書きやすくて、可愛い子達で。あっちこっちに登場しています(笑)

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