The story of cafe "Orange Heart" 2.初めての、客

 バイト初日、数時間が経過。
 ほとんどは、紅音さんが一人でこなしているのを見てるだけって感じだったけど。あとは皿洗いとか、直接お客さんには接しない仕事をして。

「ありがとうございました〜」

 カラン、と音を立ててドアが閉まる。
 これで、店内の客はいったんなくなった状態。



「さてと。坂本君、ちょっとフロアをお願いします。今のお客さんでタルトが終わったので、追加分を用意してきますから」
 ドアのところでお客さんを見送った紅さんが、グラスを拭いていた俺の方を振り返ってそういった。
「はい……って、ええっ?」
「大丈夫よ、お昼のピークは過ぎたから、このあと一時間くらい、ほとんどお客さんいないから。それに、お客さん来たら、すぐでてきますから」
 笑顔で言い切られてしまったら。反論はできない、よなぁ……。
 だからって、全くの新米を一人残すかぁ?って気もするが。
 紅音さんは、さっさと奥に引っ込んでしまった。まあ、客が来ると決まってるわけではなし。俺は、グラスを拭く作業に戻る。
 訪れる静寂。いや、BGMで緩やかにジャズのスタンダードが流れてるんだけどさ。静かなのに、居心地の良い空間を作るってのは、結構難しいもんだと思うんだけど。
 この店はそれがあるんだよなー。

 カラン。
 ベルの音がしてドアが開いた。
 お客さんだ!

「ようこそ、Orange Heartへ――」
 “挨拶は大事だから”という店長の言葉を思い出しながら、この店の決まり文句を口にした。
 入って来たのは、若い男性が一人。席に案内するまでもなく、窓側のテーブル席に座ってしまう。
 ……常連客なのかな。
 慣れたその様子に、そんなことを思いながら、とりあえずグラスに水を注いで、テーブルへ運ぶ。

「ご注文が決まりましたらお声をおかけください」
 グラスを置いて、それだけ言って、いったん下がろうとしたら。
「いつもの」
 え?
 ぽかんとしてしまった俺に向かってもう一度。
「だからいつものだって……って、結人じゃないのか? バイトの人?」
「あ、そうですけど、ええと……」
 どう答えたらいいんだか、困ってしまったその時。
「あら、いらっしゃい、高梨さん」
 奥から出てきた紅音さんが、声をかけてくれた。



 あとで聞いたら、ほぼ毎日と言って良いほど来る、常連客なのだそうで。
「甘いものが大好きで、“いつもの”って言ったら、だいたいキャラメル・ラテなんだけど。でも日によってカフェ・モカの日があるのよ。慣れれば“今日はどっち”ってわかるようになるわ。他にも、常連のお客さんで“いつもの”って言う人がいるから、頑張って覚えてね」
 と、紅音さんが言っていた。

 
 ともあれ。
 俺にとって、「初めてのの印象深い客」は彼だった。


2004/12/24 LIBRALY 1へ前へ次へ

初めてのお客さん編でした。
次の“3”とちょっと続いたお話になりますv

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