世界は神の御手の内に。
わたしには、世界は神の遊戯盤って聞こえたわ。
ずいぶん、昔のことだけど。

Just,myself

 その茶房は市場のはずれにある。
 商談をする商人も利用するし、買い物に疲れ足を休める為に利用するものもある。
 安価でありながら、市場直送という利点を活かしていて、提供されるものの質は良い。軽食も用意されていて、食事もここで取ることもできた。
 朝から晩まで人の流れがとぎれない、そんな場所である。

その、混雑した茶房の一隅に。
彼女たちはいた。


「ねぇ、一つ聞いてみたかったことがあるの」
 香茶の椀を卓に戻すと、アストリアはレイをまっすぐに見つめた。
「なによ、改まって。今まで結構ずけずけ聞いてきたじゃない」
「聞いたわね、いろいろ」

 お互いに、稀色の瞳を持つもの同士だった。ふとした事がきっかけで、知り合い、親友と呼べるまでになった。
 どちらも「稀色の瞳を持つもの」としてだけでなく、特殊な環境に生まれた。能力という個人に関する事だけでなく、家柄、育ちという点でも特殊だった。
 だから、それぞれの悩みを相談できる人間は、そうはいなくて。
 必然的、と言えたのだろう。二人のこの、結びつきは。
 互いに、他人には言えないことでもうち明けることができた。


 でも、一つだけ。今まで聞けなかったことを。

「あなたは、どう思っているの?
 あなたが、あなたとして生まれたこと」

 “特殊”であること。自分自身が他者と絶対的な差を持っていて、それはどうあがいても、かえられないということ。
 アストリアは、まだ、その点はよかったけれど。

「レイ、どうなの?」
 もういちど、問いかけながら。けれどアストリアは聞かない方が良かったのか、と後悔しかけていた。
 ずっと、聞いてみたいと思いながら。それでも、今まで聞けなかったこと。
 きっとこれが最後の機会だから。
 思い切って聞いてみたけれど。


「昔、ね」
 かなり長い沈黙のあと。
 ゆっくりと、レイは話し出した。
「昔、初めて神殿に来た頃。初めて聖書をもらって、ちゃんと自分で読み出した頃。12章を初めて読んだときにね、ふざけるなと思ったことがあったなぁ。アストリア、12章の出だし、覚えてるでしょ?」

「……12章?」
 さすがに、神殿に長くいるだけのことがある。アストリアはちょっと考えただけで、それを思い出した。
「世界は神の御手の内に。大いなる守りの手の内に……。レイ、それが?」
 12章、それは神の守りに関する章だ。
「ホントはさ、あれは“この世界は神様に守られてますよ”っていう教えなわけだ。けど。あたしには、世界は神の遊戯盤って聞こえた」
「レイ!? そんなに?」
 どうして、こんな“特殊”な私がいるの?
 どうして“普通”な人だけじゃだめなの?
 稀色の瞳、それは神の存在を肯定するけれど。奇跡を肯定するけれど。
 自分は“普通”がよかった!!
「だけど、レイ。それは考えたって……」
 アストリアだって“普通”を望んだことがないわけではないから。
 それ以上、言葉を続けられなかった。


「だけど。私は、私だよ、アストリア」
 あんたがあんたひとりでしかないのと一緒だよ、と続けてレイは微笑った。
「そりゃあ、悩んでるし、いまだってどうして、普通じゃないんだー!っとか思っていらいらしたりするし?」
 でも、大切にしているから、今の自分を。
「……それにほら、今の“私”だから、ここにいて、みんなに会えたんだから」
「みんなに? “ユーリに”じゃなくて?」
 続けて、明るく話したレイに安心して、アストリアも冗談めかして続けた。
「そりゃあ、もちろん。ユーリに会えたのが一番大事だよ。あたしにもね。2人にも」
 あんたに会えたのも大事なんだからね!
 レイは念を押すようにそう続けた。
 
「それに、たぶん意味はあるんじゃないの? あたし達がこんな風に生まれたのって」
 まだ、わかんないけど?
「意味? 意味なんて……あるのかなぁ。私のこの先なんて、絶対“お家の為”で押し切られちゃうのに」
 もう少ししたら。祭りが終わったら。アストリアは故郷に帰る。
「わかんない、わかんないっ。私だってユーリに会うまでこんな人生いらないと思ってたしっ。アストリアも絶対この先タダじゃおわらないって。でも、とりあえず今できることとかやりたいこと、やるしかないよね。さしあたって、アストリアだったら奉納舞。
 おっと、ごめん、そろそろ行かないと」
 仕事の交代時間が近づいたレイが、時間に気がついて慌てて香茶を飲み干す。
「そうね、私も戻らないと」
 レイに続いて、アストリアも立ち上がる。
「レイ、見に来てね、最後の奉納舞」
「もちろん、行くよ。何があってもね。あんたの舞が見納めだなんてねー。リスティが残念がってた」
「リスティのほうがよっぽどうまいのに」
 アストリアは苦笑しながら返して。

 そして、二人は茶房の出口で別れた。



 これは、アストリアが最後の奉納舞を舞う大祭の、数日前の出来事。
 このさき、何があるかなんて、まだ、どちらも知らなかった頃の――。

2003/01/12 LIBRALY 1へ

と、いうわけで。ほんとに久々にお目見えのエトルリーナ伝は、外伝です。
実はこのネタは、1を書き上げた当時からあったものです。が、「レイについて書けない」という制限があったので、長いこと放っておかれていました。
先日「His last...」をアップしたので、やっとこれが書けました。ということで、あわせてSEALING EGGもごらんいただけるとうれしいです。
時間軸としては、エトルリーナ伝1ですね。そして、「His last...」よりかなり前の出来事。

え? SEALING EGGとどうつながるか? それは今後のお楽しみと言うことでっ。

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