歌うこと、舞うこと。
それは、物心ついた頃から。
大切で、大好きな、ことだった。
2.
神殿は、質素倹約が必須事項だった。
けれど、祭りの場においては。自らを、最良と思われるように着飾る。
祭り巫女ならば、尚のこと。
鏡の前に、一人立ち、アストリアは身支度を整えていた。
長い髪。アストリアのそれは、他と趣を違えるもの。
前髪の部分だけが、白金と言うべき色をした髪を持って、彼女は生まれた。
普段は邪魔にならないようにと、実用本位の形にまとめ上げている髪を、凝った形に結い上げる。
化粧をし、上質の絹で作られた長衣を纏う。
髪に、耳に、手や、足に、金属と、貴石を用いた飾りを付け。
最後に、立てかけてあった錫杖を、手に取る。
そうして、一度瞳を閉じ。
意を決するかのように、一つ、深呼吸をして。
正殿に、向かう。
幕の内にいても、ざわめきが聞こえる。
神殿の正殿にしつらえた祭壇、そして祭壇を臨むことの出来る広場にしつらえられた一般席と、中程に設けられた貴賓席。
所狭しと、集う人々。
奉納舞は、式典のフィナーレともいうべき存在だった。
それまで延々と続く神官の説法など、退屈なだけ。そう思う客の方が多いものだ。
説法の為に設けられていた演壇が片づけられ、楽士が入場する。
そうして、奉納の祭り巫女たちが、一人ずつ、入場する。
「巫女、アストリア・イリウス・メンフィス。……前へ」
「はい」
最後に。
儀式を進行する、祭祀長に名を呼ばれ、アストリアは進みでる。
祭壇へ続く石段を上がる。
シャン……シャン…………。
正殿前に控える楽士たちが、鈴を鳴らしている。
四方に配置された神官が、儀礼用の錫杖を掲げた。
舞台である、正殿に、一歩、姿を現したときから。人々の目はアストリアに釘付けになる。
その、特徴ある髪と、美麗な顔つき。4年にわたって、祭り巫女をつとめてきた、優秀な舞手であり歌い手であること。祭りに関する話をすれば、誰もが一度はその名を出し、一度は見るべきと、推奨する。アストリアは、そんなちょっとした有名人だった。
静かに、錫杖を掲げ、腕を伸ばし――
タイミングを計って始められた、楽の音に合わせ、アストリアは舞い、歌う――。
***
最初は。
そう、最初に祭り巫女として舞うことが決まったときには。
ずいぶんととまどったことを、アストリアは覚えていた。
歌うことも、舞うことも大好きだったし、神殿における生活習慣として、奉納のための歌と舞を身につける事も、すすんでおこなったが。それを身につけることは、何より自分の楽しみであった。娯楽など無い神殿の生活の中で見つけた、数少ない楽しみ、それが舞いと歌。そんな中で歌い手として、舞い手としての自分が、求められることは、アストリアの中で、一つの転機になった。
伸びやかに、思うままに歌うことが、皆に喜ばれる。それが、嬉しくて。毎年、こうして舞い踊ることが楽しくて。
ただ、ひたむきに。
歌い、舞う。
***
中央、舞台の全てを見ることの出来る貴賓席で、アストリアの姿を、じっと見つめているものがいた。
神殿の長たる、神官長、そしてそれを補佐する高神官たち。
「……これを見るのも、最後になるか」
ぽつりと、呟いた神官長に、高神官が問い返す。
「よろしいのでしょうか。彼女を、屋敷へ帰しても」
「仕方あるまいよ。理由もなく、このまま神殿に留めおく、ということも出来まい」
いくら、貴族家の慣習といっても。物心つくかつかぬかの内に、神殿に預けられることは珍しいことで。十六年も神殿にいるというのは、過去にあったかどうかというほどに、珍しいことであった。
で、だ。設定を無くした管理人は。後から思い出した重大設定の為に四苦八苦していたりして……(涙)
それにしても、相変わらずメインキャラの名前が……思い出せない(ヲイ)。
不安を残したまま以下次回……。