エトルリーナ聖魔伝 〜聖者伝 2章〜

世界は神の御手の内に。
人は大いなる神の守りと共に。

        〜エトルリーナ聖書 24章 1 より。〜


 1.    市は、常になく混雑していた。
 大陸中から旅人が集まる季節、祭りの時が近づくと、カナルの街の人口は二倍から三倍までふくれあがる。
 見回り中であろう警備兵が市の中を歩いていた。前方に、見知った姿を見つけ、呼びかける。
「アストリア!」
 少女が振り返った。
 少女、と呼ばれるのも後しばらくの間だろう。
 質素な、そして化粧気のない格好は、少女を実年齢よりも幼く見せるのかも知れない。
 十七か、十八か……。
 年齢が推測できるのも、神殿の規定に従った服装をしているからだ。
 神殿、国教団施設に預けられた身分有る家柄出身なのだろう。その身につけた衣服は、十代を、寺院で過ごす子女のものだ。
「レイ!」
 少女、――アストリア・イリウス・メンフィスは、人々の中から、友人の姿を見つけだした。
 そして、互いに歩み寄る。
「ちょーど良かったわ、ここで会えるなんて。――買い物?」
「そう。……たぶんこれが最後の、ね」
「そっか」
 アストリアの言葉に、短くそれだけ応えると、レイは黙り込む。
 そのまましばらく、黙ったままで二人は進んだ。元々進もうとしていた方向へ。
「…………何年、いたんだっけ?」
 沈黙を破ったのはレイ。
「十六年……かな。三つにならないうちにここへ来たのよ。来月にはもう十九なのよね」
「そっか、もう決めるときか」
 神殿に良家の子女が預けられる場合、それは神殿による教育(行儀作法や神話を学ぶと共に、神前にいる間は身分に関わらず奉仕を義務づけられる)を願ってのものだ。
 二十歳になると。神官となり、一生を神殿で奉仕するか、神殿を出て一般の生活にを決めなければならない。
 しかし同時に。貴族社会での婚姻が十代後半に行われることから、貴族家の子女は、十七から十九で神殿を去る。
「……決めるときなんて……ないわよ」
 少しだけ、ほんの少しだけ寂しそうに、アストリアは返した。
 アストリアは、メンフィス侯爵家の長子。屋敷に帰ればいずれかの貴族家との縁談が待っている。
「そっか、ごめん」
 気分を変えるように空を見上げて、レイは続ける。
「舞うんでしょう?最後の奉納舞」
 神殿あげての祭りが、間もなく行われる。その場で。
「ええ、最後だから、気合い入るわよ」
 にこりと、笑って、アストリアも答える。
 奉納舞は祭りの目玉。
 アストリアは、四年連続で、その祭り巫女をつとめていた。


2000/10/03 LIBRALY 1へ次へ

以下続きます。
聖者伝の2……初期構想は約5年前。
ある曲を聴いてプロットを一気につくったのですが…………。やっとお目見え。
ずっと、彼女たちは出番を待ってたわけで。
なかなか大切な子たちです。

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