出会いの頃。〜ある物語の始まる前に〜(『綺麗な一瞬5のお題』から)

祈る手/歌う声/その横顔/誰かの為の涙/あぁ、笑った

 
祈る手

静謐な美しさ。
 精霊族の住まう森の美しい自然は、穏やかなもの。
 激しい嵐や、驚異の影はない。
「ルースト様」
 思わず、足を止めて泉に見入っていたルーストに、先導の従者が声をかける。
「ああ、すまない」
 ルーストは、従者に声をかけると、再び歩き出した。
精霊祭――年に一度行われる精霊族の大祭である。通年来賓として国王が招かれているが、今年は代理として王太子であるルーストが出席することになったのだ。

 初めて精霊祭を見るルーストに、従者は静かな声で解説をしてくれていた。正直な所、解説無しでは、いくら王族と言っても人間であるルーストにはわからない事が多く、正直なところ助かっていた。

「今から、精霊姫ユリア様とシリア様が祈りを捧げられます」
 祭壇に、二人の姫が歩み寄る。当代の精霊姫は双子の姉妹。左手に姉ユリア。右手に妹シリア。

 そして、初めて見た彼女の祈る手は。
森の穏やかさの様にやさしい空気を持ちながらも、凛とした美しさ。
彼は、その美しさに目を奪われた。

歌う声

流れる水の音が耳に心地よい。
 精霊祭の終了後、ルーストは庭園を散策していた。精霊族の本拠たるこの地に、人の身で立ち入ることは滅多に出来ず、せっかくの機会だからと頼み込んだのだ。
 整備された庭園、しかし人工的な気配を感じさせない。手を加えていないようですらあるが美しい造りに、精霊族という種の持つ力を感じる。

 祭典の場へ案内される途中に見た泉の美しさが気になっていたルーストの足は、自然、そちらへ向かう。

ふと。細い、けれども美しい声が聞こえるのに気がついた。若い娘、おそらくはルーストと同年代の娘の声。
それはさわやかな春風のように軽く。
けれども、清らかな小川の流れのように涼やかに。

“一体誰が歌っているのだろう?”
 気になって、ルーストは歌声の聞こえる方へ足を踏み入れる。

 カサッと。静かではあるが、異質な――その音をたてたものが“いる”事が分かる――音をたて、ルーストの足が枯れ葉を踏み。
その音で彼女、精霊姫シリアは歌うのを止めた。

 それが、彼と彼女が初めて視線を交わした時。

その横顔

「申し訳ない。邪魔をするつもりはなかったのですが」 
 あわてて謝罪したルーストに、シリアは微笑んだ。
「お気になさらず。皇太子のルースト殿下でいらっしゃいますわね。私は――」
「精霊姫シリア様。先ほどの式典、美しく荘厳なものでしたね」
 シリアの言葉を遮ってルーストが続けると、シリアは目を見開いた。
「どうかされましたか?」
「よくおわかりになりましたのね、私がシリアだと」
 双子の精霊姫を、一目で見分けた人物など、これまでにいただろうか? 日頃から身近に使える精霊族の者ですら、間違えることもあるというのに。
「わかりましたよ、あなたの、その横顔で」
「え?」
「式典の時に、拝見しただけですけれど。貴女とユリア様はよく似ておられるが、やはり別の人ですよ」
 その言葉が、シリアにもたらした驚きを、喜びを、一体どう表現したらいいというのか。

 精霊姫としてでなく、長の娘としてでなく。
 一人の精霊族として、認められたのは。
これが初めてではないだろうか。

「ありがとうございます」
 意識せぬままに、そう言葉が出ていた

誰かの為の涙

「だって、おかしいでしょう? ユリアったら、何を考えたのか。私が精霊姫をやめるだなんて。突然そんなことを」
 シリアはそう言って微笑んでみせ、カップの香茶を一口飲んだ。
 精霊祭の日に出会い、以来数ヶ月。ルーストは時間を見つけては、シリアの元を訪れるようになっていた。共に制約の多い立場であるから、そう多い回数ではない。約束をした上での訪問でも、精霊力の乱れを抑える為に、シリアが神殿に籠もってしまった時もあった。
 とはいうものの。皇太子であるルーストが、私的な訪問という形で精霊姫たるシリアの元を訪ねているという話は、ちょっとした噂になりつつあった。当代皇太子は精霊姫を妃に迎えるという前例のない行動に出るらしい、という噂だ。
 噂は、ユリアの耳にまで届いているらしい。「シリアは精霊姫の位を降りるのか」と、問われたという。さすがに、シリア本人に直接何か言うものはないようだが、この分では、精霊族の長老らに問いただされるのも時間の問題だろう。
 私が精霊姫をやめるなんて、か。
 王城への帰路、ルーストはシリアの言葉を思い出していた。
 噂は所詮噂。しかしルーストの心には、シリアを想う心が確かに生まれている。妃にと望むなら、それはシリアに精霊姫を降りろということ。そして、周囲は猛反対をするだろう。
 シリアの微笑を思い出し、ルーストは顔をゆがめた。
 そうしなければ、泣き出してしまいそうで。

あぁ、笑った

「私と結婚していただけませんか」
 正式な話となれば、王家からの使者を立て、精霊族の長に正式な申し出をしなくてはならず、婚約から成婚までの一つ一つが過去の
事例に則った盛大な儀式の連続となるだろう。
 けれど、まず最初の一声は。ルーストが直接伝えたかった。そして、シリアから直接承諾の言葉を聞きたかった。

「一体どうなされるおつもりですか」
 この数日というもの、同じ質問を繰り返されていた。先日、父王に内々にと話したことが、早々に漏れたらしい。家臣はあまりいい顔をしなかった。
 そして今日も詰め寄る家臣を振り切って、城を出てきた。

 長い、長い、沈黙の後。

「お受けします」
 シリアが言った。
 最高の笑顔とともに。

 そして、その笑顔は。
 ルーストの顔にも笑顔をもたらした――。

サイト公開 2008/10/15 LIBRALY 1へ

CouleuRさまで配布している、WEB拍手用5のお題から『綺麗な一瞬5のお題』をお借りして、連作を作ろう♪ ということで、会員制サークルエレメントのNo.15〜18に掲載しました。
サイトでは拍手お礼として5つランダム表示にしていたものです。

ずいぶん公開に時間がかかっちゃいました。
「ア・ルース伝」のリューク王子のパパママ出会い〜プロポーズ編でした。シリアさんの妹のユリアさんがシアちゃん&サラちゃんのお母様。
二代続きの双子にして、選んだ道が対照的な様を書きたいなと思って生まれた設定。
……なつかし。

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